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東京高等裁判所 平成11年(行ケ)70号 判決

原告

富士通株式会社

代表者代表取締役

【A】

訴訟代理人弁理士

【B】

【C】

【D】

【E】

被告

特許庁長官【F】

指定代理人

【G】

【H】

【I】

【J】

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1当事者の求めた判決

1  原告

特許庁が、平成7年審判第481号事件について、平成11年2月1日にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

2  被告

主文と同旨

第2当事者間に争いのない事実

1  特許庁における手続の経緯

原告は、平成3年9月20日(優先権主張、平成2年9月20日・特願平2ー251053号出願)、名称を「入出力制御装置」とする発明につき特許出願(国際出願)をした(特願平3ー515291号)が、平成6年12月6日に拒絶査定を受けたので、同月29日、これに対する不服の審判の請求をした。

特許庁は、同請求を平成7年審判第481号事件として審理したうえ、平成11年2月1日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は同月17日、原告に送達された。

2  本願明細書(平成10年9月28日付手続補正書による補正後のもの、以下同じ。)の特許請求の範囲の請求項1~7及び9に記載された発明の要旨

(1)  請求項1に記載された発明(以下「本願発明1」という。)の要旨

夫々データを格納する複数の入出力装置及び当該データの誤り検出符号を格納する入出力装置とを含む複数台の入出力装置(30)と、1台の予備用入出力装置(31)とを含んで成る論理デバイスが接続される下位装置インタフェース制御部(26)と、

上位装置(10)に接続され、前記上位装置(10)から発行された前記複数台の入出力装置(30)及び前記予備用入出力装置(31)の動作命令を受ける上位装置インタフェース制御部(21)と、

前記複数台の入出力装置(30)よりデータ及び誤り検出符号を平行して読み出し、その読み出し信号に基づいて前記複数台の入出力装置のデータの正常性を検査する検査手段(22)と、

前記複数台の入出力装置(30)と前記予備用入出力装置(31)を制御する制御手段(23)と、を備え、

前記制御手段は、

① 前記検査手段(22)が前記複数台の入出力装置のうちのすべての入出力装置(30)が正常であるとしているときは前記論理デバイス中の前記複数の入出力装置(30)のみを選択し、前記上位装置インタフェース制御部(21)を介して入力された前記命令に基づいて前記下位装置インタフェース制御部(26)を介して、前記選択した前記複数台の入出力装置を制御して前記論理デバイスに対して前記命令を実行し、

② 前記検査手段(22)が前記複数台の入出力装置(30)のうちの一つの入出力装置(30)に異常があるとしたときは、前記論理デバイス中の残りの正常な入出力装置と前記予備用入出力装置(31)とを選択し、前記上位装置インタフェース制御部(21)を介して入力された前記命令に基づいて前記下位装置インタフェース制御部(26)を介して、前記選択した残りの正常な入出力装置(30)と前記予備用入出力装置(31)を制御して前記論理デバイスに対して前記命令を実行すると共に、

③ 前記上位装置(10)から前記上位装置インタフェース制御部(21)を介して入力される前記論理デバイスに対する命令に基づき、前記論理デバイス中の前記複数台の入出力装置(30)に対しての処理実行を行なっていない処理空き時間に、前記下位装置インタフェース制御部(26)を介して前記論理デバイス中の予備用入出力装置に対してアクセスコマンドを発行した後に前記下位装置インタフェース制御部(26)を介して送出されてくる前記予備用入出力装置(31)からの前記アクセスコマンドに関する処理終了情報により前記予備用入出力装置(31)が正常動作するか否かを判定すること、

を特徴とする入出力制御装置。

(2)  請求項2に記載された発明(以下「本願発明2」という。)の要旨

前記制御手段は、前記上位装置(10)から前記上位装置インタフェース制御部(21)を介して入力される命令の処理実行を行なっていない処理空き時間の長さに応じて、前記複数の入出力装置(30)及び前記予備用入出力装置(31)を、或いは前記予備用入出力装置(31)のみを選択し、前記下位装置インタフェース制御部(26)を介して得られる前記複数の入出力装置(30)及び前記予備用入出力装置(31)からの情報により、或いは、前記下位装置インタフェース制御部(26)を介して得られる前記予備用入出力装置(31)からの情報により、前記複数の入出力装置(30)及び前記予備用入出力装置(31)が、或いは、前記予備用入出力装置(31)が正常動作するか否か判定すること、

を特徴とする請求項1記載の入出力制御装置。

(3)  請求項3に記載された発明(以下「本願発明3」という。)の要旨

前記制御手段は、前記予備用入出力装置(31)に対し、データの書き込みを実行した後、該予備用入出力装置(31)からのハードエラー信号に基づいて異常判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の入出力制御装置。

(4)  請求項4に記載された発明(以下「本願発明4」という。)の要旨

前記制御手段は、前記予備用入出力装置(31)に対しデータを書き込んだ後読み出しを実行し、該予備用入出力装置(31)からの読み取りエラー信号に基づいて異常判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の入出力制御装置。

(5)  請求項5に記載された発明(以下「本願発明5」という。)の要旨

前記制御手段は、前記予備用入出力装置(31)に対しシーク動作を実行した後、該予備用入出力装置(31)からのハードエラー信号に基づいて異常判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の入出力制御装置。

(6)  請求項6に記載された発明(以下「本願発明6」という。)の要旨

前記制御手段は、前記入出力装置(30)に対しシーク動作を実行した後、該入出力装置(30)からのハードエラー信号に基づいて異常判定することを特徴とする請求項1又は2に記載の入出力制御装置。

(7)  請求項7に記載された発明(以下「本願発明7」という。)の要旨

前記処理空き時間を計数するパトロール用タイマレジスタ(27)を更に有し、

前記制御手段は該パトロール用タイマレジスタ(27)の値が所定値に達してから前記複数の入出力装置(30)及び前記予備用入出力装置(31)の、又は前記予備用入出力装置(31)のみの異常判定を行なうことを特徴とする請求項1又は2に記載の入出力制御装置。

(8)  請求項9に記載された発明(以下「本願発明9」という。)の要旨

前記制御手段は前記予備用入出力装置(31)に対し、第1のシーク動作を実行して正常終了したときは、該予備用入出力装置(31)によりデータの書き込み動作を実行させ、該データの書き込み動作が正常終了したときは該予備用入出力装置(31)に対し第2のシーク動作を実行させた後前記データの読み出し動作を実行させ、前記第1のシーク動作、書き込み動作、第2のシーク動作及び読み出し動作のいずれかで該予備用入出力装置(31)からエラー信号が入力されたときは異常判定をすることを特徴とする請求項1又は7記載の入出力制御装置。

3  本願明細書の特許請求の範囲の請求項8(以下「本願請求項8」という。)の記載

前記上位装置インタフェース制御部(21)、検査手段(22)、制御手段(23)、予防保守情報格納用レジスタ(25)下位装置インタフェース制御装置(26)、及び前記制御手段(23)により異常と判定された場合に当該異常に関する情報を保持する予防保守情報格納用レジスタ(25)の夫々は複数組あり、前記複数台の入出力装置(30)と1台の予備用入出力装置(31)を一つの論理デバイスとする複数の論理デバイスに共通接続され、前記上位装置(10)からの命令に基づいて複数の論理デバイスの任意の一つの論理デバイスを選択制御する請求項1、3ないし6のうちいずれか一項に記載の入出力制御装置。

4  審決の理由の要点

審決は、別添審決書写し記載のとおり、(1)本願発明1~7及び9が、特開平2ー236714号公報(以下「引用刊行物1」といい、そこに記載された発明を「刊行物1発明」という。)及び特開昭63ー279318号公報(以下「引用刊行物2」といい、そこに記載された発明を「刊行物2発明」という。)の各記載に基づいて当業者が容易に発明し得たものと認められるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとし、(2)本願請求項8の記載は、技術的に不明瞭であるから、特許法(平成6年法律第116号による改正前のもの)36条5項及び6項に規定する要件を満たしていないとした。

第3原告主張の審決取消事由の要点

審決の理由中、本願発明1~7及び9の要旨の認定、引用刊行物1の記載事項及び刊行物1発明の認定(審決書9頁2行~15頁9行)、本願発明1~7及び9と刊行物1発明との一致点及び相違点の認定、引用刊行物2の記載事項及び刊行物2発明の認定(同18頁15行~21頁4行)、本願請求項8の記載自体の認定は認める。

審決は、本願発明1~7及び9と刊行物1発明との相違点についての判断を誤って(取消事由1)、本願発明1~7及び9が引用刊行物1、2の各記載に基づいて当業者が容易に発明し得たものとの誤った結論に至り、また、本願請求項8の記載が技術的に不明瞭であるものと誤って判断し(取消事由2)、それが、特許法(平成6年法律第116号による改正前のもの)36条5項及び6項に規定する要件を満たしていないとの誤った結論に至ったものであるから、違法として取り消されなければならない。

1  取消事由1(相違点についての判断の誤り)

(1)  審決は、本願発明1と刊行物1発明との相違点である「本願発明1では、『③前記上位装置から前記上位装置インタフェース制御部を介して入力される前記論理デバイスに対する命令に基づき、前記論理デバイス中の前記複数台の入出力装置に対しての処理実行を行なっていない処理空き時間に、前記下位装置インタフェース制御部を介して前記論理デバイス中の予備用入出力装置に対してアクセスコマンドを発行した後に前記下位装置インタフェース制御部を介して送出されてくる前記予備用入出力装置からの前記アクセスコマンドに関する処理終了情報により前記予備用入出力装置が正常動作するか否かを判定する』のに対し、上記引用刊行物1の発明(注、刊行物1発明)は、上記③の構成を備えていない点」(審決書17頁11行~18頁4行)の判断において、「引用刊行物2は、『アクセス頻度の少ない磁気ディスク装置、もしくは予備装置として設置されて待機している磁気ディスク装置は、…データ破壊等が発生しやすい欠点があり、又、予備装置として設置されて待機している磁気ディスク装置は何ケ月もアクセスがない場合もあり、もし故障していても報告できず、他の磁気ディスクの故障により予備装置へのアクセスがあって初めて故障しているということが報告されることもあるという欠点があった。』と、予備磁気ディスク装置の欠点に明確に言及しているから、当業者が、上記引用刊行物1の発明と上記引用刊行物2の発明(注、刊行物2発明)を組み合わせようとする動機づけは十分にある」(同21頁12行~22頁4行)とし、さらに、「上記組み合わせを行うときに、・・・引用刊行物1の発明の論理デバイスに対して処理実行を行なっていない処理空き時間にアクセスコマンドを発行するようにすることは、当業者にとっては、最も自然にかつ第一に着想し得るところである。しかも、これによって当業者の予測を超えた格別の作用効果を奏するとも考えられない。また、上記組み合わせを行うときに、上記引用刊行物2の自己診断回路をコントローラ(制御装置)に含めるようにすることも、当業者にとって着想困難であるとも、技術的にみて格別困難であるとも、格別の効果を有するとも考えられない。」(同22頁5行~23頁2行)と判断した。

(2)  しかしながら、審決は、本願発明1と刊行物1発明との対比に当たっては、刊行物1発明を「制御装置」に関するものと認定し、これを「制御装置」である本願発明1と対比して、一致点及び相違点の認定を行ったものである。しかるに、上記のとおり、審決は、刊行物1発明と刊行物2発明とを「組み合わせようとする動機づけは十分にある」と判断するに当たっては、引用刊行物1及び引用刊行物2に「予備ディスク装置」という共通の語があることに着目して、右判断をしたものであるが、一旦、刊行物1発明を「制御装置」であると認定し、「制御装置」であることの技術的共通性に基づいて、刊行物1発明と本願発明1との対比を行ったのであれば、刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせる「動機付け」の検討に当たっても、刊行物1発明が「制御装置」であることに着目して、両者の技術的共通性を論じるべきものである。

しかるときは、刊行物2発明が予備用ディスク装置の「自己診断回路」の発明であるのに対し、刊行物1発明は、複数台のディスク装置と予備用ディスク装置とを制御するために、これらディスク装置と接続される「制御装置」の発明であるから、当業者が、「制御装置」の発明に、予備用ディスク装置の「自己診断回路」の発明を組み合わせることを着想すること自体が困難であるというべきである。

のみならず、仮に、刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせた場合を想定したとしても、刊行物1発明は、複数の磁気ディスクからなる集合体である論理デバイスに対して上位装置からのアクセスが行われる「制御装置」であるのに対し、刊行物2発明は、予備用ディスク装置の「自己診断回路」であり、かつ、上位装置からのアクセスが単体の磁気ディスク装置に対して行われるものであるから、その組み合わせたものの構成は、制御装置に論理デバイスの自己診断回路を備えた構成になるものと考えるのが自然であり、論理デバイスを構成する個々のディスク装置のいずれかを選択的に診断するものにはならない。また、刊行物1発明の予備ディスク装置を刊行物2発明の予備ディスク装置に置き換えたとしても、予備ディスク装置が、入出力制御装置からの処理コマンドの実行を行っていない処理空き時間に自己診断を行う構成のものになると考えるのが自然であり、論理デバイスの処理空き時間を考慮するものとはならない。

したがって、審決が、刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせようとする動機付けが十分にあると判断したこと、また、その組合わせを行うときに、刊行物1発明の論理デバイスに対して処理実行を行っていない処理空き時間にアクセスコマンドを発行するようにすることが、当業者にとって、最も自然に、かつ、第一に着想し得るところであると判断したことは、いずれも誤りであるといわざるを得ない。

(3)  本願発明1は、次のとおり、刊行物1発明と刊行物2発明との組合わせからは得られない新規な効果を奏するものである。

(a) 本願発明1は、「上位装置50からの命令が無い処理空き時間に・・・パトロール用タイマレジスタ65により判定される規定時間毎に・・・各論理デバイスの予備用ディスク装置709・・・に対して・・・エラー検出等が行なわれていく」(甲第2号証13頁21行~14頁1行)構成であるから、「予備用入出力装置31が使用されないときであっても、処理空き時間を利用して予備用入出力装置31の異常の有無を検出でき」(同7頁16~18行)、「故障入出力装置の現出時に、速やかに予備用の入出力装置への切り換えを行なうことが可能となる」(甲第11号証4頁13~14行)ものである。

すなわち、本願発明1は、制御装置が、自らの正常性を確認するのではなく、制御装置の構成に含まれていない、これとは別個の予備用ディスク装置の正常性を確認できているので、制御装置が、予備用ディスク装置を使用したいときに、何らの問題を生じることなく、その使用を開始し得るという特有の効果を奏するのである。

(b) また、本願発明1は、「制御手段の処理の空き時間の間中は、・・・制御手段の処理負荷は、極めて低い状態となっている。それ故に、制御手段は、・・・予備用の入出力装置に対して、この制御手段の処理負荷無しに、アクセスコマンドを発行可能となるものである」(甲第11号証4頁6~11行)から、「入出力制御装置内に、特別の制御手段を設けることなく、予備用の入出力装置の正常性を確認することができ」(同頁12~13行)るとの効果を奏し、さらに、「予備用の入出力装置として自己診断機能を有していない通常の入出力装置を用いることができ・・・入出力装置の共通化をはかることができ、コスト低減でき、且つ入出力装置の保守も容易になる」(同4頁16~20行)という効果を奏するものである。

したがって、審決が、本願発明1について、格別の作用効果を奏するとは考えられないとした判断も誤りである。

(4)  本願発明2ないし7及び9は、本願発明1を限定するものであるから、本願発明1の進歩性に関する上記の審決の誤りは、本願発明2ないし7及び9についても共通するものである。

2  取消事由2(本願請求項8の記載についての判断の誤り)

(1)  審決は、本願請求項8の記載について、「請求項8は、請求項1、請求項3~6、及び(請求項3~6を介して)請求項2を引用して記載されており、かつ、請求項8には、『前記…予防保守情報格納用レジスタ(25)下位装置インタフェース制御装置(26)…』と記載されているが、『予防保守情報格納用レジスタ(25)』なる事項は、請求項1若しくは請求項3~6又は請求項3~6が引用する請求項2のいずれにも記載されておらず、上記請求項8の引用する『予防保守情報格納用レジスタ(25)』が何を指すのか不明である」(審決書27頁5~15行)とし、さらに、「請求項8の記載の骨格を取り出すと、『…複数の論理デバイスに共通接続され、…複数の論理デバイスの任意の一の論理デバイスを選択制御する請求項1、3ないし6のうちいずれか一項に記載の入出力制御装置。』となるが、本願の特許請求の範囲の請求項1若しくは請求項3~6又は請求項3~6が引用する請求項2のいずれにも、論理デバイスが単数であるか複数であるかを限定する記載がないことから、上記請求項1及び請求項3~6に記載された事項に基づいて把握される発明は、単数の論理デバイスをその構成に欠くことのできない事項とするものをも包含する。すなわち、上記請求項8に記載された事項に基づいて把握される発明には、『…複数の論理デバイスに共通接続され、…複数の論理デバイスの任意の一つの論理デバイスを選択制御する、単数の論理デバイスをその構成に欠くことのできない事項とする入出力制御装置。』という、論理矛盾のある発明が包含されることとなる」(同27頁18行~28頁16行)として、本願請求項8に記載された特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項は不明瞭であるとした。

(2)  本願請求項8が、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1、請求項3~6、請求項2を引用して記載されていること、本願請求項8には「前記…予防保守情報格納用レジスタ(25)下位装置インタフェース制御装置(26)…」との記載があること、「予防保守情報格納用レジスタ(25)」なる事項が、上記請求項1、請求項3~6又は請求項2のいずれにも記載されていないことは認める。

しかしながら、本願請求項8の「予防保守情報格納用レジスタ(25)下位装置インタフェース制御装置(26)」との記載(この記載は、「予防保守情報格納用レジスタ(25)、下位装置インタフェース制御装置(26)」と分けて読むのが自然である。)は、「下位装置インタフェース制御装置(26)」の誤記であり、また、本願請求項8の全体の記載から見て、「予防保守情報格納用レジスタ(25)」が何を指すかが不明瞭なことはなく、本願請求項8に記載された特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項は、当業者にとって明確である。

すなわち、本願請求項8の引用する上記請求項1、請求項3~6又は請求項2には、「下位装置インタフェース制御装置(26)」が記載されているのに対し、「予防保守情報格納用レジスタ(25)」は、これらの請求項のいずれにも記載されていないものの、本願請求項8に「前記制御手段(23)により異常と判定された場合に当該異常に関する情報を保持する予防保守情報格納用レジスタ(25)」との記載がある。

このことによれば、当業者であれば、本願請求項8の「予防保守情報格納用レジスタ(25)下位装置インタフェース制御装置(26)」との記載が「下位装置インタフェース制御装置(26)」の誤記であることを明確に理解し得るものであり、かつ、上記「前記制御手段(23)により異常と判定された場合に当該異常に関する情報を保持する予防保守情報格納用レジスタ(25)」との記載により、本願請求項8の全体の記載から見て、特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項が当業者に不明瞭であるということはない。

したがって、審決が、本願請求項8に記載された特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項が不明瞭であると判断したことは誤りである。

(3)  また、「本願の特許請求の範囲の請求項1若しくは請求項3~6又は請求項3~6が引用する請求項2のいずれにも、論理デバイスが単数であるか複数であるかを限定する記載がないことから、上記請求項1及び請求項3~6に記載された事項に基づいて把握される発明は、単数の論理デバイスをその構成に欠くことのできない事項とするものをも包含する」からといって、本願請求項8記載の発明が単数の論理デバイスをその構成に欠くことのできない事項とする入出力装置を包含するものであるとすることはできない。

すなわち、本願請求項8記載の発明は、それが引用する請求項の記載と併せて認定されなければならないことは当然であるとしても、上記請求項1、請求項3~6又は請求項2のいずれにも、論理デバイスが単数であるか複数であるかを限定する記載がないのに対し、本願請求項8には「前記複数台の入出力装置(30)と1台の予備用入出力装置(31)を一つの論理デバイスとする複数の論理デバイスに共通接続され」と記載されているから、本願請求項8は、論理デバイスが複数である発明を記載しているのであり、上記請求項1、請求項3~6又は請求項2に記載された事項のうち、複数の論理デバイスを有する発明に限定したものである。

したがって、審決が、本願請求項8に記載された事項に基づいて把握される発明に、「単数の論理デバイスをその構成に欠くことのできない事項とする入出力制御装置」が包含されることになると判断し、これを前提として、本願請求項8に記載された特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項が不明瞭であると判断したことは誤りである。

第4被告の反論の要点

審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は理由がない。

1  取消事由1(相違点についての判断の誤り)について

(1)  引用刊行物1及び引用刊行物2を見た場合に、刊行物2発明の自己診断の対象物である予備磁気ディスク装置を、刊行物1発明もその制御の対象として有していること、及び引用刊行物2に記載された「アクセス頻度の少ない磁気ディスク装置、もしくは予備装置として待機している磁気ディスク装置は、・・・データ破壊等が発生しやすい欠点があり、又、予備装置として設置されて待機している磁気ディスク装置は何ケ月もアクセスがない場合もあり、もし故障していても報告できず、他の磁気ディスクの故障により予備装置へのアクセスがあって初めて故障しているということが報告されることもあるという欠点」(甲第13号証1頁右下欄12行~2頁左上欄3行)がある点は、刊行物1発明においても同様であることは、当業者であれば、即座に気付く事柄であり、そのような技術的共通性から、刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせることを自然に思いつくことは明らかである。

原告は、「制御装置」であることの技術的共通性に基づいて、刊行物1発明と本願発明1との対比を行ったのであれば、刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせる「動機付け」の検討に当たっても、刊行物1発明が「制御装置」であることに着目して、両者の技術的共通性を論じるべきものであるとして、「動機付け」を検討する際に、上記のような刊行物1発明と刊行物2発明との制御対象(予備磁気ディスク装置)の共通性を根拠としてはならないかのような主張をするが、該主張は、上記のような当業者の自然な思考過程に反するものであって、極めて不自然であり、妥当性を欠くものである。

(2)  しかして、刊行物1発明と刊行物2発明は、物理的な記憶デバイスとして予備磁気ディスク装置を用いている点で共通するものであり、刊行物2発明は、物理的な記憶デバイスである予備磁気ディスク装置の診断に関するものであるから、これを刊行物1発明と組み合わせるときの構成が、刊行物1発明における予備磁気ディスク装置(予備用入出力装置)を診断する構成となることは明らかであって、論理デバイス全体を診断するものとはなり得ないことは明白である。

また、刊行物1発明においては、上位装置からのアクセスが論理デバイスに対して行われるから、刊行物1発明に対して刊行物2発明を組み合わせるに当たっては、当業者であれば、論理デバイスに対してアクセスがなされていない時間に予備用入出力装置に対して自己診断を行うようにすること、すなわち、入出力装置と予備用入出力装置により構成される論理デバイスに対し、上位装置から入力される命令に基づき、制御手段が入出力装置に対しての処理実行を行っていない処理空き時間に、予備用入出力装置に対して、診断用のアクセスコマンドを発行するようにすることを、最も自然に、かつ、第一に着想し得ることも明らかである。

したがって、審決が、刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせようとする動機付けが十分にあると判断したこと、及びその組合わせを行うときに、刊行物1発明の論理デバイスに対して処理実行を行っていない処理空き時間にアクセスコマンドを発行するようにすることが、当業者にとって最も自然に、かつ、第一に着想し得るところであると判断したことに誤りはない。

(3)  原告は、本願発明1が、刊行物1発明と刊行物2発明との組合わせからは得られない新規な効果を奏すると主張するが、次のとおり、それは誤りである。

(a) 原告の主張する本願発明1の効果のうち、予備用入出力装置31が使用されないときであっても、処理空き時間を利用して予備用入出力装置31の異常の有無を検出でき、故障入出力装置の現出時に、速やかに予備用の入出力装置への切り換えを行うことが可能となることは、引用刊行物2の「予備装置が待機中に故障してもすぐにその故障を知ることができ、予備装置に切替えられても常に正常に動作を行なうようにすることができる」(甲第13号証2頁右下欄12~15行)との効果の記載から、当業者が当然に予測できたものである。なお、制御装置が、自らの正常性を確認するのではなく、制御装置の構成に含まれていない、これとは別個の予備用ディスク装置の正常性を確認できることは、上記のとおり、刊行物2発明を刊行物1発明と組み合わせるときの構成が、刊行物1発明における予備磁気ディスク装置(予備用入出力装置)を診断する構成となることから、当業者の予測を何ら超えるものではない。

(b) また、刊行物2発明は、上位装置からアクセスされていない間に予備磁気ディスク装置の自己診断を行うものであるから、刊行物2発明において、上位装置からのアクセスと予備磁気ディスク装置の診断とが同時に発生することに起因する様々な弊害を回避できることは当業者にとって自明であり、その一例として、上位装置からのアクセスと予備磁気ディスク装置の自己診断の両方を同時に扱わなくてよいために処理負担がかからず、装置の構成も簡単で済む(両方を同時に扱うための特別の手段を設ける等の必要がない)ことも、また、当業者にとって同様に自明な事柄である。

したがって、刊行物2発明の自己診断回路を刊行物1発明の制御手段(コントローラ24)に含めた場合において、制御手段が、処理負荷なしに、アクセスコマンドを発行可能となるものであり、入出力制御装置内に、特別の制御手段を設けることなく、予備用の入出力装置の正常性を確認することができることは、当業者であれば当然に予測できた事項である。

さらに、刊行物2発明においても、第1図の11で示される信号線に接続される磁気ディスク装置は特別のものである必要はなく、通常のものを用いることができることは明らかであるから、予備用の入出力装置として自己診断機能を有していない通常の入出力装置を用いることができるとの効果も当業者が当然に予測できたものにすぎない。

2  取消事由2(本願請求項8の記載についての判断の誤り)について

(1)  原告は、本願請求項8の「予防保守情報格納用レジスタ(25)下位装置インタフェース制御装置(26)」との記載が「下位装置インタフェース制御装置(26)」の誤記であり、当業者であれば、そのことを明確に理解し得ると主張する。

しかしながら、明細書の特許請求の範囲の記載が誤記であるというためには、正しい文言が、当業者に自明のものとして理解されるものでなければならないところ、本願請求項8の上記「予防保守情報格納用レジスタ(25)下位装置インタフェース制御装置(26)」との記載部分について、「予防保守情報格納用レジスタ(25)」をそっくり削除したものが正しい文言であるということが、当業者に自明のものとして理解されるとは考えられない。したがって、そのような誤記が存在することを前提として、本願請求項8が不明瞭でないと主張することは許されないというべきである。

(2)  また、原告は、本願請求項8が、論理デバイスが複数である発明を記載しているのであり、本願明細書の特許請求の範囲の請求項1、請求項3~6又は請求項2に記載された事項のうち、複数の論理デバイスを有する発明に限定したものであると主張する。

しかしながら、本願請求項8には、上位装置インタフェース制御部、検査手段等については複数組あることが明記されているが、論理デバイスについてはそのような記載がなく、単に、「前記複数台の入出力装置(30)と1台の予備用入出力装置(31)を一つの論理デバイスとする複数の論理デバイスに共通接続され、前記上位装置(10)からの命令に基づいて複数の論理デバイスの任意の一つの論理デバイスを選択制御する」との、複数の論理デバイスについての構成が記載されているにすぎないのであり、この記載のみによって、請求項1に記載されている「論理デバイス」をすべて「複数の論理デバイス」と読み替えることはできないというべきである。

一方、請求項1には「論理デバイス」が単数・複数のいずれとも限定されていないので、本願請求項8に記載された事項に基づいて把握される発明には、審決記載のとおり、単複両数の論理デバイスが入り交じった論理矛盾のある発明が包含されることになる。

(3)  したがって、審決が、本願請求項8に記載された特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項が不明瞭であるとしたことに誤りはない。

第5当裁判所の判断

1  取消事由1(相違点についての判断の誤り)について

(1)  次の事実は当事者間に争いがない。

(a) 刊行物1発明が、「①アレイ型ディスク駆動機構は、アレイを形成するように構成された複数のディスク駆動機構を有する。②ディスク駆動機構に対する命令は、上位インターフェースカードを介して入力される。③アレイ型ディスク駆動機構は、コンピューターからは、複数のディスク駆動機構として、又は全てのアレイ型ディスク駆動機構からなる1個の大きなディスク駆動機構として、又はその中間の構成として見えるように制御される論理デバイスである。④アレイ型ディスク駆動機構は、コンピューターによりアレイ型ディスク駆動機構に読み書きされるデータに対して複数のレベルの冗長性を提供する手段(エラー訂正及び制御(ECC)ハードウェア)を有し、読み出し又は書き込み動作時に冗長化を行う。⑤冗長性を提供する手段は、欠陥のあるディスク駆動機構のデータを再生し、その再生されたデータを予備ディスク駆動機構に格納する。⑥欠陥のあるディスク駆動機構についてのデータが予備ディスク駆動機構に書き込まれると共にその欠陥のあるディスク駆動機構から読み出されるべきデータが予備ディスク駆動機構から読み出されることとなるように予備ディスク駆動機構が欠陥のあるディスク駆動機構に論理的に置き換えられる。」(審決書14頁3行~15頁9行)との構成を備えた「アレイ型ディスク駆動機構システムの発明」(同13頁末行~14頁1行)であること、

(b) 刊行物2発明が、「『上位装置から入力される予備磁気ディスク装置に対する命令に基づき、前記予備磁気ディスク装置に対しての処理実行を行なっていない処理空き時間に、前記予備磁気ディスク装置に対してアクセスコマンドを発行した後に送出されてくる前記予備磁気ディスク装置からの前記アクセスコマンドに関する処理終了情報により前記予備磁気ディスク装置が正常動作するか否かを判定する』磁気ディスク装置の自己診断回路の発明」(同20頁15行~21頁3行)であること、

(c) 引用刊行物2に「予備装置として設置されて待機している磁気ディスク装置は、・・・データ破壊等が発生しやすい欠点があり、又、予備装置として設置されて待機している磁気ディスク装置は何ケ月もアクセスがない場合もあり、もし故障していても報告できず、他の磁気ディスクの故障により予備装置へのアクセスがあって初めて故障しているということが報告されることもあるという欠点があった。」(同18頁末行~19頁10行)との記載があること。

(2)  しかして、(1)の事実によれば、刊行物1発明は「予備ディスク駆動機構」を備えるアレイ型ディスク駆動機構システムの発明であり、また、刊行物2発明は「予備磁気ディスク装置」が正常動作するか否かを判定する自己診断回路の発明であって、ともに予備ディスク駆動機構(予備磁気ディスク装置)を有する点で技術的に共通するものであり、かつ、引用刊行物2に、前示(1)(c)のとおり記載された欠点は、刊行物1発明の予備ディスク駆動機構においても存在し得ることは、当業者が極めて容易に認識し得ることと認められるから、刊行物2発明の予備磁気ディスク装置の自己診断回路に関する技術を、刊行物1発明の予備ディスク駆動機構において用いることは、当業者が容易に想到するものであるということができる。

この点につき、原告は、審決が、一旦、刊行物1発明を「制御装置」であることの技術的共通性に基づいて、本願発明1と対比したのであるから、刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせる「動機付け」の検討に当たっても、刊行物1発明が「制御装置」であることに着目して、両者の技術的共通性を論じるべきものであり、しかるときは、当業者が、「制御装置」である刊行物1発明に、予備用ディスク装置の「自己診断回路」である刊行物2発明を組み合わせることを着想すること自体が困難であり、仮に組み合わせたとしても、刊行物2発明は、上位装置からのアクセスが単体の磁気ディスク装置に対して行われるものであるから、組み合わせたものは、制御装置に論理デバイスの自己診断回路を備えた構成になると主張する。

しかしながら、刊行物1発明を、一旦、「制御装置」であることの技術的共通性に基づいて本願発明1と対比したからといって、刊行物2発明と組み合わせる「動機付け」の検討に当たっても、刊行物1発明が「制御装置」であることに着目して、両者の技術的共通性を論じなければならないとする根拠は何ら存在せず、一般に、刊行物1発明と刊行物2発明とが他の点で技術的共通性を有する場合に、その共通性に着目し、これに基づいて刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせることについては、それが容易であるか困難であるかは格別、組み合わせること自体が不可能であるとする理由はない。そして、前示のとおり、本件においては、刊行物1発明と刊行物2発明がともに予備ディスク駆動機構(予備磁気ディスク装置)を有する技術的共通性に着目し、刊行物2発明の予備磁気ディスク装置の自己診断回路に関する技術を、刊行物1発明の予備ディスク駆動機構に適用することは、当業者にとって容易に想到し得ることと認められるものである。

したがって、原告の前示主張は失当であり、審決が、当業者において、刊行物1発明と刊行物2発明とを組み合わせようとする動機付けは十分あるとした点に誤りはない。

(3)  刊行物2発明が、上位装置から入力される予備磁気ディスク装置に対する命令に基づき、前記予備磁気ディスク装置に対しての処理実行を行っていない処理空き時間に、前記予備磁気ディスク装置に対してアクセスコマンドを発行した後に送出されてくる前記予備磁気ディスク装置からの前記アクセスコマンドに関する処理終了情報により前記予備磁気ディスク装置が正常動作するか否かを判定する磁気ディスク装置の自己診断回路の発明であること、また、刊行物1発明のアレイ型ディスク駆動機構システムにおいては、予備ディスク駆動機構を含むアレイ型ディスク駆動機構が論理デバイスを構成し、これに対して上位インターフェースカードを介して命令が(すなわち、上位装置からの命令が)入力されることは前示のとおりである。

そうすると、当業者において、前示のように、刊行物2発明の予備磁気ディスク装置の自己診断回路に関する技術を、刊行物1発明の予備ディスク駆動機構に適用することとした場合、刊行物1発明のディスク駆動機構システム(制御手段)が、前示論理デバイスに対し、上位装置から入力される命令に基づいて、ディスク駆動機構に対しての処理実行を行っている時間以外の時間(処理空き時間)に、予備ディスク駆動機構に対して、診断用のアクセスコマンドを発行するような構成を採用することが最も自然であることは明白である。

したがって、審決が、刊行物1発明と刊行物2発明との組合わせを行うときに、刊行物1発明の論理デバイスに対して処理実行を行っていない処理空き時間にアクセスコマンドを発行するようにすることが、当業者にとって最も自然に、かつ、第一に着想し得るところであると判断したことに誤りはない。

(4)  原告は、本願発明1が「予備用入出力装置31が使用されないときであっても、処理空き時間を利用して予備用入出力装置31の異常の有無を検出でき」、「故障入出力装置の現出時に、速やかに予備用の入出力装置への切り換えを行なうことが可能となる」ものであり、制御装置が、自らの正常性を確認するのではなく、制御装置の構成に含まれていない、これとは別個の予備用ディスク装置の正常性を確認でき、予備用ディスク装置を使用したいときに、何らの問題を生じることなく、その使用を開始し得るという特有の効果を奏すると主張する。

しかしながら、引用刊行物2に「磁気ディスク装置の上位装置からアクセスされていない間、磁気ディスク装置に有する自己診断機能によって自動的にデータの書込、読込および位置決め等の自己診断を行うことにより、データの破壊等の発生がなくなり、又、予備装置が待機中に故障してもすぐにその故障を知ることができ、予備装置に切り替えられても常に正常に動作を行うようにすることができる効果がある。」(審決書20頁5~12行)との記載があることは当事者間に争いがなく、刊行物2発明は、かかる効果を奏するものと認められ、そうすると、原告の主張する前示本願発明1の効果は、これとほぼ同様であって、何ら格別のものであるということはできない。なお、制御装置が、自らの正常性を確認するのではなく、制御装置の構成に含まれていない、これとは別個の予備用ディスク装置の正常性を確認できることは、前示のように、刊行物2発明の予備磁気ディスク装置の自己診断回路に関する技術を、刊行物1発明の予備ディスク駆動機構に適用する場合に、当然想定されることである。

また、原告は、本願発明1が「制御手段の処理の空き時間の間中は、・・・制御手段の処理負荷は、極めて低い状態となっている。それ故に、制御手段は、・・・予備用の入出力装置に対して、この制御手段の処理負荷無しに、アクセスコマンドを発行可能となるものである」から、「入出力制御装置内に、特別の制御手段を設けることなく、予備用の入出力装置の正常性を確認することができ」るとの効果を奏し、さらに、「予備用の入出力装置として自己診断機能を有していない通常の入出力装置を用いることができ・・・入出力装置の共通化をはかることができ、コスト低減でき、且つ入出力装置の保守も容易になる」という効果も奏すると主張する。

しかしながら、刊行物2発明は、前示のとおり、上位装置から入力される予備磁気ディスク装置に対する命令に基づき、前記予備磁気ディスク装置に対しての処理実行を行っていない処理空き時間に、前記予備磁気ディスク装置に対してアクセスコマンドを発行した後に送出されてくる前記予備磁気ディスク装置からの前記アクセスコマンドに関する処理終了情報により前記予備磁気ディスク装置が正常動作するか否かを判定する磁気ディスク装置の自己診断回路の発明であるから、上位装置から入力される命令に基づく処理と自己診断処理とが重なって処理負荷が過大なものとなることなく、診断のためのアクセスコマンドの発行がなされるものと考えられ、そうであれば、診断処理のために特別の手段を設ける必要は特に認められない。

また、引用刊行物2(甲第13号証)の「第1図は本発明の一実施例のブロック図である。・・・選択回路5は出力9と上位装置からの制御信号10を選択し、出力8が“1”のとき出力9、出力8が“0”のとき制御信号10を出力11に出力する。出力11は磁気ディスク装置の動作を指示する制御信号であり、出力11により磁気ディスク装置は動作を行なう。」(同号証2頁左上欄13行~右上欄13行)との記載から見て、第1図の出力11に接続される部分が、通常の磁気ディスク装置の構成部分であることは明らかであるところ、このことに鑑みて、前示のように、刊行物2発明の予備磁気ディスク装置の自己診断回路に関する技術を、刊行物1発明の予備ディスク駆動機構に適用することとした場合、診断回路を刊行物1発明のディスク駆動機構システム部分(論理デバイスの制御装置部分)に置くことは、当業者にとって格別の困難はないと認められ、そうであれば、予備ディスク駆動機構(予備用の入出力装置)自体が自己診断機能を有する必要がないことは自明である。

したがって、前示の原告主張の効果も格別のものということはできない。

そうすると、審決が、本願発明1について、格別の作用効果を奏するとは考えられないとした判断に誤りはない。

2  以上によれば、本願発明1と刊行物1発明との相違点についての審決の判断に原告主張の誤りはなく、その他、本願発明1が、引用刊行物1、2に基づき、当業者において容易に発明し得たとする審決の判断に、これを取り消すべき瑕疵は見当たらない。

よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中康久 裁判官 石原直樹)

裁判官 清水節は、転補につき署名捺印することができない。 裁判長裁判官 田中康久

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